このたびの財務省、事務方トップの福田淳一事務次官の辞職は、世間の耳目を集めました。
この騒動、総務の目から見た感想を書かせていただきたいと思います。
総論から先に言うと、きわめて奇異な対応だという感想です。
1.最初の、麻生太郎財務大臣の対応
最初に麻生財務大臣が、
- 「事実だとしたらアウト」
- 「事実だとしても実績を踏まえればその一点をもって能力に欠けると判断しているわけでない。(現時点で)処分は考えていない」
と発言した対応について。
「事実だとしたらアウト」という認識は、そのとおりだと思います。
一方で、「能力に欠けると判断していない、処分しない」との発言、認識は、サンドウィッチマンの富澤たけしのギャグ「ちょっと何言ってるか、わかんない」ですね。
この発言を別の表現で表すなら、
- 「セクハラしたって、優秀だし、これまでの仕事の功績は評価に値するから、罰する必要はない」
ということになります。
こんな認識はありえないんじゃないでしょうか。
セクハラ、パワハラ、果ては飲酒運転、その他違法行為など、コンプライアンスに反する言動で、就業規則その他のルールにのっとり罰するのが必要であります。極論、“優秀なら何やっても罰しない”という話になってしまいます。
2.財務省の対応
セクハラの証拠としての音声が公開されたこと、その対応としての財務省(麻生大臣)の対応について。
- 「名乗り出てもらわないと、音声のやりとりの事実が確認できない」
- 「第三者の弁護士にやってもらう」
との発言と対応の方針。これまた、普通なら考えにくい対応です。
ハラスメントの被害者が名乗り出るのはかなり困難なことであり、むしろ被害者の個人情報、人権は最優先で守られなければならない。
通常、民間の企業の例で言えば、中立の立場になる部署(たとえば人事部、総務部など)が、個別に双方の言い分を聞き、事実か否かを判断するということをします。が、麻生大臣の方針は、「加害者の上司が被害者に出てこい」と言っているものです。もし出てきたとして、そこでは被害者がさらなるいやがらせ、不快な気分を感じるのは間違いなく、二次被害が発生します。
そういう意味で、「第三者の弁護士」という選択肢はないこともないでしょうが、被害者側も仕事として、取材活動の一環の中で起きたことですので、被害者の所属する企業(今回の場合だとテレビ朝日)が被害者を代表して対応すべきです。
3.福田次官の対応
(1)辞職
福田次官の辞職。
望ましい姿としては、上司である麻生大臣による更迭だったのではないか。
民間企業でいうと、就業規則違反で解雇の処分があります。
その場合、懲戒解雇なのか諭旨解雇なのかの2種があります。
前者が有無を言わさず解雇、後者は退職願を書かせて解雇、つまり自ら退職を申し出る、という形です。
セクハラであれば、ことの深刻度合いにもよりますが、民間企業では懲戒解雇までは至らないのではないか、というのがわたしの感想です。なので、自己都合退職でもよかったかもしれませんが。
かたや今回の事件は、財務省事務次官という、官僚のトップ、事務次官のやらかしたこと。社会に対する影響度も大きいことからすると、解雇(更迭)でもよかったかもしれません。
(2)否定
音声データが公開されてますが、福田次官は「(音声データは)一部しかとっていない。全体を見ればセクハラに該当しない」と否定しました。
加害者側の「セクハラに該当しない」というのは、一方的だと思います。
ハラスメントというのは、加害者側がどう思っていようと被害者側がそう感じたらハラスメントが成立する、というたぐいのものです。
マスコミ、という独特の世界であるとはいえ、福田事務次官が発した言葉は、聞くに堪えない言葉の連続でした。よくこれで、「ハラスメントにはあたらない」と言えたもんです。相当の度胸の持ち主ですね。
ハラスメントとは少々異なりますが、コンプライアンスを考えた場合、よく言われるのが「それを家族に話しても、問題ないと言えるか、自問自答せよ」というのがあります。
福田事務次官が、自分の言動を家族に話せるでしょうか。話せないでしょう(と思いたい)。だとすると、彼がテレビ取材を受けて「ハラスメントにあたらない」と応えるのは、彼自身も受け入れられないのでは。そう考えると、彼の家族の心中を察してあまりあります。
こんな記事が出ました。今更感の満腹ですが、ひっそりとやるよりは反省したという姿を(恥ずかしい程度ではありますが)表に出すことは悪いことではありません。
他の省庁も従わざるを得ませんし。
福田事務次官は裁判はやる、と屈していないようですけど、果たしてどうなるのか。
今回の事件は残念なことですが、セクハラに対する、より多くの世間の方々の意識が変わればと願います。